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Shannon Mattern プロフィール

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シャノン・マターンはフィラデルフィアのペンシルベニア大学のメディア研究、美術史の特別招聘教授。以前はニューヨークのニュースクール大学でメディア研究および人類学の教授として約20年間教鞭をとっていた。研究テーマは、メディア・アーキテクチャ、情報インフラ、都市テクノロジーなど。著書に*『The New Downtown Library*』、『Deep Mapping the Media City』、『Code and Clay, Data and Dirt: 5000 Years of Urban Media』、『A City Is Not a Computer』などがある。

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zoomでのインタビューの様子

zoomでのインタビューの様子

—— -able city labの活動で、「都市におけるイノベーション」、「イノベーションとしての都市(City as Innovation)」、を考えていくにあたって、私たちはシャノンさんの著書『スマートシティはなぜ失敗するのか?(原題:A City Is Not a Computer)』で紹介されている「メンテナンス」と言う概念がヒントになるのではないか?と考えました。産業や技術によって駆動される従来の「イノベーション」のイメージと、インクルージョンやケア、クオリティ・オブ・ライフ、多元世界などの概念を包括する「メンテナンス」との重なりの間に-able cityの手掛かりがあるのではと考えたのです。まず始めに、本を書き始めたきっかけについて教えていただけますでしょうか。

私が一番最初に取り組んだ研究のテーマは公共図書館でした。デジタル・リソースやデジタル・エコノミーなどの分野が発展する時代において、公共の図書館がどのような意味を持つのかということに興味をもち、レム・コールハースが設計したシアトル公共図書館を対象に研究を行いました。当時シアトルは、マイクロソフトの存在によって国際的な注目を集めつつあり、続いてアマゾンも進出してきました。私が研究に取り組んだ時期はまさに、中規模都市としてシアトルが台頭する中で、図書館をどのように再設計するか?という問いが中心にありました。建物自体は魅力的ではなかったかもしれませんが、アナログとデジタルを融合させるというコンセプトは実に興味深く、過渡期にある都市にとって、どのような情報文化を育むべきかということを考えさせるプロジェクトでした**。**

日本にも伊東豊雄が設計した仙台メディアテークがありますね。これらは古いものと新しいものを融合させ、イノベーションと公共の利益のためのテクノロジーを探求する機関であり、企業による商業的かつ高速のイノベーションとは異なるものです。むしろ公益に資する技術開発に取り組む機関であり、それはメンテナンスという概念にも通じ、地域の文化を維持し、さまざまな形式でマテリアル・カルチャーを保存しています。

それから25年ほど研究を続けていく中で、古いものと新しいものを融合させるという考え方、情報に対する異なる考え方、スマートさに対する様々な考え方に触れ、「スマート」と呼ばれるものが多くの場合、あまりにも限定的であることについて考えたいと思うようになりました。

そこで、さまざまなスケールを横断して考え始めました。データベースなどの情報ソースに人々をナビゲートするインターフェースデザインのようなミクロのものから都市を考えるためのマクロスケールまで。情報やスマートさ、ナレッジについて考える方法にはどのようなものがあり、それらがデバイスや建築物などのインターフェースと都市インフラの設計方法との間をどのように結びつけることができるのか —— その後、Places Journalという雑誌に記事を書き始め『都市はコンピュータではない (City is not a computer)』という記事を2017年に発表しました。

スマートシティ関連の記事を多く書くようになったのは12年前あたりからです。当時ニューヨークでもいくつかのスマートシティの実践が行われていて、Googleの姉妹企業であるSidewalk Labsがニューヨークのハドソンヤードに本社を移転して街をスマートシティ化する計画もそのうちの一つでしたが、全てうまくいっていませんでした。私はこれらのプロジェクトがどのように進化し、なぜ失敗したのかに興味を持ち、10年にわたってその経過を追い、Googleで働いた後にSidewalk Labsに移った何人かの知り合いのキャリア変遷なども含めて取材を進めていきました。それが本の執筆動機となり、Places Journalに寄稿した記事をまとめながら、メンテナンスとイノベーションの間について人々に考えてもらうための書籍を作ることにしたのです。

—— なるほど。ご著書『スマートシティはなぜ失敗するのか?』の内容についても改めて教えていただけますか?

1章をインタフェースに関する話題から始めたのは、読者が日常的に目にするものから入ることで、関心を引きたいと思ったからです。スマートフォンのスクリーン、交通機関の駅で見かけるスクリーンなど。都市システムへのインターフェースに注目すると、都市システムの機能が小規模または縮図的に見えてくることがわかります。

2章では都市を計算環境として考える際の限界について考察をしています。アルゴリズムによる最適化やフィルタリングに容易に頼らず、計算機的な思考を超えた考えを促そうとしました。

3章は図書館について紹介しています。図書館は都市に住む人々に、ナレッジにはさまざまな形態があること、そしてそれらは多様なメディアフォーマットで提供されていることを思い出させてくれる素晴らしい場所です。本やデータベース、メイカースペース、デジタルテクノロジー、誰もが使える無線ネットワークなど。商業的な利益のためではなく、公共の利益を目的として図書館は設計することができます。

そして最後の章では、都市や建物、インターフェースを設計する方法について、より柔軟かつ責任を持って考えたいのであれば「メンテナンス」という考え方が必要であることを提案しています。それは単なるイノベーションではありません。私はこの本を4つの章で構成し、人々がスケールを越えて思考を巡らせ、イノベーションとの関連でメンテナンスについて考え、都市計画との関連でアーキテクチャについて考えるよう促したいと思いました。人々がより柔軟に、そして包括的に考えることで、多様な能力を認め、尊重できる都市が実現するだろうと考えているのです。

メンテナンスという概念は、より大きく、より速く、より強く、より多くのデータを収集するようなことではありません。私の友人はコミュニティネットワークの開発に取り組んでいて、郊外や田舎を対象に活動しています。これらの地域は歴史的に疎外されてきた有色人種のコミュニティが大半を占めており、ここには大きなハイテク企業が数多くあるにもかかわらず、企業は地域を収益性の高い市場とは見ていないため、高速インターネットを地域に整備していません。友人はいくつかの図書館と協力して、地域の人々がネットワークを使えるよう開発を進めています。ここで重要なのはネットの速さや強靭さではありません。人々を監視し、データを収集するためのものでもありません。地域コミュニティと協力して、信頼できるパートナーのようなものとして機能するネットワークを設計し、人々がインターネットにアクセスできる環境を構築することに注力しているのです。5Gや6Gほど高速ではないかもしれませんが、代わりに彼らの価値観を体現する。つまり、利用するにあたっては社会的価値を維持することが重要であり、それは社会的なイノベーションの一つの形態であり、技術的なイノベーションでもあるといえます。彼らが見ているのはテクノロジー企業が重視している価値とは異なるのです。